2019/04/19 パエリア・タパス祭り

 青空でした。わたしは自転車の前かごにリュックを入れると、駅へ走り出しました。今日は金曜日。日比谷公園で、“パエリア・タパス祭り”が開かれる最初の日です。なにかおもしろい食べ物に、出会えるかもしれません。

 きっかけは2か月前、「世界のハーブ&スパイス大辞典」を買ったことでした。装丁のきれいな大きな本で、ずっしりと重く、開くと知らないハーブやスパイスが、次から次へと現れました。それまでハーブといえば、バジルやタイム、パセリ、ローズマリーなど、料理の本で見かけるようなものでした。けれど、アフリカやアジ ア、オーストラリア、ロシアにもハーブがあることを知りました。日本に葱や青じそ、みょうが、柚子があるように、どんな土地にもその場所ならではのハーブがあ って、さまざまな料理に使われています。ハーブを一つ覚えるたびに、風景も一つ 増えていって、ハーブの世界が広がっていくのを感じます。

 ハーブとは花や葉、スパイスは種や根。長い間、そんな風に思っていました。けれど、ハーブとスパイスの境界は、実はあいまいです。植物学者は、料理人とは別の見方をします。ヨーロッパに古くからある考え方では、国内の菜園でとれるものをハーブ、外国から輸入されてくるものをスパイスというそうです。

 おかしな分け方! と思ったけれど、歴史を振り返ると、スパイスはいつも遠い外国からやってきました。アジアの海から船でアラビア半島に運ばれ、そこから隊商(キャラバン)が地中海まで運んでくる。旅は長く、危険も多かったので、葉や小枝などかさばる部分は捨てられて、香りの凝縮した部分だけが選ばれました。
 ハーブを知って世界が開けていったように、スパイスは歴史という、時間の流れを感じさせてくれます。

 地下鉄の階段をあがって外に出ると、緑の木々にかこまれた日比谷公園がありました。道を入ると広場があって、中央に大きな水盤があり、そのまわりにたくさんのテーブルが並んでいます。平日の昼は穏やかで、どの人もゆったり腰かけていました。
 屋外テントが20軒ほど建っていて、にぎやかに声をあげていました。鉄板で、イベリコ豚のソーセージが焼かれていました。カキと野菜をのせた小麦粉の料理や、殻付きのホタテを白ワインで蒸し焼きにしたもの。大きな平たいパエリア鍋では、鮮やかな黄色やオレンジ色のご飯が炊かれ、その中でエビや貝が煮えています。
 わたしはカニのパエリアを買って、噴水のそばのテーブルに座りました。日射しはちょっと暑かったけれど、ときおりすずしい風が吹いて、水面にさざ波を浮かばせました。
 パエリアは、カニとイクラがのっていて、黒オリーブとレモンがアクセントにな っていました。食べながら、サフランの香りを探そうとしたけれど、それはすごくむずかしい。

 サフランは、スペインやカシミールの平原に咲く紫色のサフランクロッカスの雌しべを、摘んで乾燥させたもの。バレンシア地方のパエリアや、プロヴァンスのブイヤベースなどに使われるスパイスで、美しい色をつけるだけでなく、複雑な香りもするのだといいます。

 トランペットの音楽がきこえていました。遠くに見える花だんの方へ歩いていくと、薄青いネモフィラの花が、積もった雪のように咲いていました。その先にはチ ューリップが咲いていて、新緑の木立が続いています。
 ハーブとスパイスに少しくわしくなりながら、歩くようにゆっくりと、文章を書いていけたらいいなと思います。

ネモフィラの花壇

戻る